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福岡地方裁判所 昭和24年(行)119号 判決 1949年12月28日

原告

吉橋岩夫

被告

飯塚市議会

主文

被告が昭和二十四年八月九日原告に対して為した十六ケ月間出席を停止する旨の議決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として原告は被告議会の議員であるところ、被告は原告において有力市会議員の市民税額を共産党員に漏せつし以て市政を破壞し、地方自治法の真精神をじゆうりんしたりとみなし昭和二十四年八月九日原告を十六ケ月間の登院(出席)停止処分に付する旨の懲罰議決を偽し公開の議場において、議長からその旨を宣告した。しかしながら、原告は右の如き行為をしたことはない。仮りにかかる行為があつたとしても、議会の懲罰権は議場内における議員の非行についてのみ発動せらるべきものであつて議場外における議員の非行についてはその権限は及ばないものである。又仮りに議会が議場外における議員の非行について懲罰権があるとしても、地方自治法及び被告議会の会議規則中議員が市民税の額を他にもらした場合にこれに懲罰を科し得る趣旨の規定はないのみならず普通地方公共団体の議会の議員が同議会の議員の市民税額を他に漏せつしたという行為は何等議会の体面を汚し或は、議会の円滑なる運営を阻害する行偽すなわち懲罰事犯には該当しないものである。従つて当該行偽を目し、市政を破壞し地方自治法の真精神をじゆうりんするものなりとして為された本件の懲罰議決は到底違法なるを免れない。よつて原告はここに該議決の取消を求める為本訴請求に及んだと陳述し被告の答弁に対し普通地方公共団体の議会は本来の意味において行政機関ではないけれども地方自治法第百三十四条の規定により議員に対して懲罰を科する議決を為すときはこれによつて直接議員に公法上の法律効果が及ぶからこの関係において議会はいわゆる行政庁としてその議決取消の訴の被告となり得べきものであると述べ立証として、甲第一号乃至第四号証(うち第一、第四号証は各一、二)を提出し証人入江淸一の証言を援用し、乙第一号証の成立を認めた。

被告訴訟代理人はまず訴却下の判決を求めその理由として被告議会は普通地方公共団体の議決機関であつていわゆる行政庁ではないのであるから、被告議会がその議員たる原告に対し懲罰議決を為したからといつてそれはもとより行政庁の処分という訳にはいかないのであつて、これは要するに議会内部における一種の自粛行偽に過ぎないものである。このことは地方自治法が議員の資格審査に関する議会の決定に対する出訴について第百二十七条に議会の為した違法の再議又は再選挙に対する出訴について第百七十六条にそれぞれ特に議会を被告として訴を提起し得る旨を規定しておりながら議会がその議員に対して懲罰議決を為した場合に議会を被告として出訴し得る旨の規定を設けなかつた法意からもこれを察知するに難くないところであると述べ、本案につき原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として請求原因事実中原告が被告議会の議員であること、被告が原告において市政を破壞し地方自治法の真精神をじゆうりんする不逞の行為ありとして昭和二十四年八月九日原告に対し十六ケ月間の登院(出席)停止の懲罰議決を為したことはいずれもこれを認めるが、その余の事実はこれを争う。

而して被告が原告に対し右の如き懲罰議決を為したのは原告において飯塚市役所税務課吏員から、市会議員の市民税額を知らせてもらつたのを奇貨とし、絶対に他にもらさないことの堅き条件が付してあつたにも拘らず、直ちにそれを共産党員に漏せつし、而も有力市会議員が市当局と結托し極度に自己の担税額を減少し不正腐敗を働き居る旨、惡らつ虚偽の宣伝を記載した壁新聞を飯塚市内各所にちよう附せしめ同市民をして市当局の措置につき少なからぬ疑惑の念を抱かしめ一般に納税ちゆうちよの傾向を生ぜしめたためである。勿論市当局としては市民税の賦課徴收について何等の不正腐敗の事実もないのであるから原告が事実そのままを公表したのであるならば格別意に介するに足りぬのであるが右の如く有力市会議員が市当局と結托し市民税の賦課徴收につき不正腐敗を働き居る旨の惡らつ虚偽の宣傳をしたことは、たやすく看過し難い問題であり、この事実は円満なるべき市政の運営を破壞し、地方自治法の眞精神をじゆうりんするものであつて、正に懲罰事犯に該当するものと認むべきであるから、右の事実にもとずいて為された本件の懲罰議決はごうも違法の廉はないと陳述し立証として乙第一号証を提出し証人大貝宝の証言を援用し甲第四号証の一、二は不知自余の甲号各証はその成立を認めると述べた。

理由

まず本訴が被告の主張する如く果して不適法のものなりや否やについて判断する。この点につき被告の主張するところは、被告議会は普通地方公共団体の議決機関であつていわゆる行政庁ではないのであるから、被告議会がその議員に対して為した本件懲罰議決も亦從つて行政庁の処分とはいえないのであつて、このことは地方自治法が第百二十七条、第百七十六条等においては特に議会を被告として訴を提起し得る旨の規定を設けながら議会がその議員に対して懲罰議決を為した場合に特に議会を被告として出訴し得る旨の規定を設けなかつた法意からも明らかであり、これは要するに議會内部における一種の自肅行為に過ぎないものであるというにある。なるほど普通地方公共団体の議会が本来の意味において行政庁に該当しないことは被告主張の通りであるけれども、行政事件訴訟特例法の適用に関し行政庁というときは、国又は地方公共団体の行政機関のみならずいやしくも法令の規定により外部に対し一定の公法上の処分を為す権限を認められているものは、その関係においては行政庁であり、その処分は即ち行政庁の処分であると解するを相当とするところ普通地方公共団体の議会には地方自治法第百三十四条の規定により将にその議員に対する懲罰権が認められており、議会がその議員に対して懲罰議決を為すときはこれによつて直接議員に対して公法上の法律効果を及ぼすのであるからその関係において議会は行政庁となり、その懲罰議決はすなわち行政庁の処分であるというべきであり、又いやしくも行政庁の違法な処分により権利を侵害せられたりとする者は何人といえども、当該行政応を被告としてその違法な処分の取消変更を求め得ることは新憲法の原理とするところであるから、被告の主張する如く議会の懲罰議決に対する出訴につき地方自治法に規定がないからといつてその出訴を不適法となすべきではない。以上説明の如く本訴はごうも不適法のものではないから前記被告の主張は採用することはできない。

よつて本案につき按ずるに原告が被告議会の議員であること、被告議会が原告において市政を破壞し、地方自治法の真精神をじゆうりんする不ていの行為ありとして昭和二十四年八月九日原告に対し十六ケ月間の登院(出席)停止の懲罰議決を為したことは当事者間に争のないところである。それで原告にどのような不ていの所為があつたかについて調べるに証人入江淸一、大貝宝の各証言に弁論の全趣旨を綜合すると昭和二十四年七月二十七日頃、当時日本共産党嘉穗地区においては飯塚市の昭和二十三年度市民税額が不均衡で特に同市会議員に対する市民税の賦課は不当に低額の疑ありとし搜査班なるものを設けて、これが実体調査に乗出していたので同党員で同市会議員である原告は右嘉穗地区の党員数名と共に飯塚市役所税務課に出掛け、市会議員の同年度における市民税額の公表方を求めたところ同税務課係員において市民税額を一般に公表することは将来あらぬうわさの元であつて、一層市民の氣持を刺げきし徴税上に重大な支障を及ぼすことになるからという理由でこれを拒否した。しかし原告が他には絶對にもらさないから、市会議員たる原告だけには是非知らしてくれと強く要求して止まなかつたので、税務課係員としても余儀なくその翌日頃原告に対し絶対に一般に公表しないという堅い条件の下に前記市会議員の市民税額を知らした。しかるに原告は右の約束に違反し、而も後記認定の如き壁新聞が飯塚市内の各所に掲載ちよう附せられるに至るであろうことを豫知しながらこれを嘉穗地區共産黨員にもらしたため、同地區搜査班の手によつて、昭和二十四年八月初旬頃同市会議員の昭和二十三年度における市民税額を例記し、且つそれが一般の市民税額に比較し、如何にも不当に低額なものであつて、市民税の賦課が全くでたら目であり、市民税の賦課徴收につき市當局に不正腐敗の事実があるという趣旨を記載した各種各樣の壁新聞が同市内の各所に掲載ちよう附せられた事実を認めることができ、他に右認定を左右する資料はない。そこで右原告の所為が果して懲罰事犯として懲罰の対象になるか否かについて考えてみねばならないのであるがそのためには、まず普通地方公共団体の議会の議員に対する懲罰権はどの範圍に及ぶかと判断する必要がある。さて地方自治法第百三十四条には普通地方公共団体の議会は、この法律及び会議規則に違反した議員に対し議決により懲罰を科することができる。と規定しているのであるが、このように地方自治法が議会に対し議員に対する懲罰権を認めた理由はな辺に存するであろうか、思うに普通地方公共団体の議会は当該公共団体における最高の意思決定機関であるから、その会議の運営につき相当の品位と権威とお保持しなければならないのは、正に当然のことであるがそれには少なくとも議員に議会の品位を汚しその権威を失墜するような言動があるときはよろしくこれに懲罰を科しその他相当の措置を講ずる権限を議会に対し認めなければならないことも当然の歸結であつて又議会は主義主張を異にする多数の議員を以て構成せられる合議体であるから、いきおい議員間に対立抗爭の生ずることは、止むを得ない現象であるが、これをそのまゝに放任するときは議会の円滑なる運営は到底これを期することができないのであるから議会における秩序をみだる議員に対しては何等かの措置を講ずる必要も存するのである。地方自治法がその第百二十九條に、普通地方公共団体の議会の会議中この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは、議長はこれを制止し又は発言を取り消させ、その命令に從わないときはその日の会議が終るまで発言を禁止し又は議場外に退去させることができる。議長は議場が騷然として整理することが困難であると認めるときは、その日の会議を閉じ又は中止することができる。第百三十一条に議場の秩序を乱し又は会議を妨害するものがあるときは、議員は議長の注意を喚起することができる。第百三十二条に普通地方公共団体の議会においては、議員は、無礼の言葉を使用し又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。第百三十三条に普通地方公共団体の議会の会議又は委員会において侮辱を受けた議員はこれを議会に訴えて処分を求めることができる。と規定しているのも右と同一の見地に立てるものというべきで、ただこれ等の規定は紀律という方面から立言しているのであるがこれに違反する言動があつた場合すなわちここに懲罰の問題が生ずるのである。而してこれ等の規定により知られるところは、懲罰は議場又は議会における議員の言動を対象としていることで、これは議会が議決機関である性質上、懲罰に附し得べき議員の行動の場所的な自らなる制限というべく、又前記のような地方自治法が議会にその議員に対する懲罰権を認めた理由に鑑みるときは事項的には、合議体たる議会の運営に当り、議会の品位を汚しその権威を失墜するような言動乃至議会の円滑なる運営を阻害する言動というところにその限界を求めるべきである。

つまり懲罰事犯には右のような場所的及び事項的な兩方面よりの限界があつて、すなわち、多くの場合議場内又は議会内において生じた言動が懲罰の対象となるのを普通とするも議場又は議会外において生じた行為についても例へば秘密会における議事の内容を外部に漏せつするというような、場所的には議場又は議会の延長にして、事項的には議会の運営に関するものと認めらるべき事項に限り特に懲罰を科し得べきものと解するを相当とする。但しこれは地方自治法及び会議規則に特別の規定の存する場合は、その解釈を異にすべきことあるは勿論であるが、地方自治法及び成立に爭のない飯塚市議会々議規則(甲第二号証)には右の解釈と異なる見解に立てるものと認むべきものは一も存しない。今これを本件についてみるに、原告は前記認定の如く飯塚市役所税務課係員から一般には公表しないことの条件の下に、昭和二十三年度における市会議員の市民税額を敎えてもらいながら、而もこれが壁新聞に掲載ちよう附せらるゝことを知りながら、これを他にもらしたため日本共産党嘉穗地區の搜査班によつてこれが壁新聞に掲載ちよう附せられたというのであるから原告の右所為は議場又は議会外の行為にして、而も議会の運営に関しないものであるから、これに対し懲罰を以つて臨み得べきものでないことは、前叙説明に徴し明らかである。

しかるに被告が原告の右所為を懲罰事犯に該当するものと認め而も十六ケ月にわたる長期の登院(出席)停止の懲罰議決を爲したことは違法たるを免れないものといわなければならない。

よつて原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負擔につき、民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 野田三夫 裁判官 川淵幸雄 裁判官 入江啓七郞)

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